本論では、IPO企業における利益調整と経営者の株式保有の関係を、主として経営者の努力インセンティブの観点から分析を行った。具体的には、経営者の機会主義的行動を表す変数として利益調整(裁量的会計発生高)をその代理変数として用い、利益調整とIPO企業の経営者の持株比率との関係を中心に実証分析を行った。経営者の機会主義的行動についての検証仮説として、アライメント仮説とエントレンチメント仮説を設定し、仮説検証のため裁量的会計発生高を被説明変数とし、経営者の持株比率とその他のコントロール変数を説明変数とした重回帰分析を行った。結果として、経営者の持株比率が低い段階では、他の株主との利益の一致度合いが高まることによるエントレンチメント効果が働き、経営者持株比率が増加していき、議決権の過半数を確保するほぼ50%超までは、エントレンチメント効果が働き、議決権の過半数を確保した経営者は、再び株主との利益の一致の視点を重視し、利益調整を減少させるので、アライメント効果が表れるということが確認された。