本論の目的は、企業再編における利益調整と日本の株式市場の短期株価リターンの関係について実証的に分析することである。具体的には、企業再編の公表前後で短期の株式リターンが異常な動きを見せるかどうかについて検証した。特に、現金を対価とする取引(TOB)と株式を対価とする取引(株式交換)にサンプルを分け、さらに、株式を対価とする取引(株式交換)をグループ外取引とグループ内取引に分け、対価の支払い手段によって、企業再編というイベントに対して株式市場は、それぞれ異なる反応を見せるのかどうかについてイベント・スタディの方法によって検証した。また、企業再編公表後の短期異常リターンと経営者の利益調整行動との関係を、短期の株価異常リターンを被説明変数とし裁量的会計発生高および他のコントロール変数を説明変数とした回帰モデルを設定し、実証的に分析した。その結果、再編公表による短期株価の異常リターンは、現金を対価とする(TOB)再編企業と株式を対価とする(株式交換)再編企業(グループ外)でプラスの効果があった。そして、現金を対価とする(TOB)再編企業の経営者による利益調整のみが、株価引き下げ効果があるという結論を得た。