本論の目的は、過去十数年にわたって日本企業が行ってきたレバレッジド・リキャピタリゼーション(Leveraged Recapitalization)による財務戦略が株式価値を高めるのかについて考察することである。特に、レバレッジド・リキャピタリゼーションによる財務戦略がROEを改善させる効果があるのか、あるいは資本コストを低下させる効果があるのか、さらにそれが株式価値を増大させるのかについて、理論的検討と事例分析によって検証した。2章では日本企業によるレバレッジド・リキャピタリゼーションによる財務戦略の状況をリキャップCBを中心に概観した。3章ではROEと企業価値(あるいは株式価値)との関係を理論的に検討した。4章では社債発行によって資金を調達し、その資金で自己株買いをした場合に株式価値が高まるのかどうかについて簡単なモデルにより理論的に検討した。5章では、前章までの理論的検討を踏まえ、リキャップCBを発行した地方銀行の事例分析を行った。結果として、以下のことが示された。理論分析においてこの財務戦略は、法人税を考慮する場合、自己株買いそれ自体が株式価値を高める効果を持っており、法人税を考慮しない場合、ファイナンシャルリスクの発生に伴って、資本コストが高まり株式価値を押し上げる効果はないことが示された。事例分析において、地方銀行によるリキャップCBの発行は①一時的に株価を上昇させるがすぐにその影響はなくなること、②ROEの改善効果は単年度だけ効果があり、翌年以降は元に戻ってしまうこと、③狙いの一つとして自己資本比率の質的改善が図られていること等が示された。