本論では、買収防衛策を導入する経営者は何を意図していたのか、そして買収防衛策の導入が、市場にどのような影響を与えるのか、について検証するために以下のような分析を行った。本論では,まず,近年のわが国での買収防衛策の状況を整理した後,4つの検証仮説(経営者保身行動仮説、信頼の破壊抑制仮説、株主価値増大仮説、私的情報開示仮説)を取り上げ、2つの実証分析を通じて、それらの仮説に関する直接・間接的な検証を行った。この中で、特に直接的に検証を試みた仮説は経営者保身行動仮説、信頼の破壊抑制仮説であり、ほかの仮説は間接的な検証となっている。2つの実証分析とは、株式市場への影響を考察するための株価イベントスタディと経営者の導入意図を考察するための2項プロビット分析である。この実証分析によって以下のような結論が得られた。①経営者は基本的に自己の保身のために買収防衛策を導入した可能性が高い。② 経営者は、自己の保身とともに従業員が蓄積してきた技能というよりは従業員の雇用自体を守るために買収防衛策を導入した可能性がある。③市場は、これらの意図を持った経営者の買収防衛策導入の行動に、目立った反応を見せなかった。