本稿は、ビジネスコンピュータ市場における顧客獲得の手法とITベンダーのロックイン戦略に関する検証結果について報告するものである。本稿に係わる検証対象は二点に大別される。一点は、IBMと汎用機市場の形成(第一世代から第二世代のビジネスコンピュータ、IBMを「巨人」へと成長させる原動力となったSystem/360、IBMの市場独占を完成させたSystem/370とそれ以降の汎用機)についての検証結果である。もう一点は、マイクロソフトを中心にしたPC市場の形成(DOSの誕生からWindowsへの移行期、Windowsにみるマイクロソフトのロックイン戦略)についての検証結果である。そして、この二点の検証結果の対比から、汎用機の覇者IBMとPC市場の絶対的な勝者マイクロソフトの戦略面における本質的な相違点について記すものである。 本研究では、対象となるITベンダーの戦略を分析するために、Arnoldo HaxとDean Wildeにより開発されたデルタモデルを使用している。1999年に発表された新しい戦略フレームワークながら、極めて完成度も高く、応用範囲も広い。本来、戦略フレームワークは戦略立案時に使用するものであるが、反対に、本研究ではこれを戦略検証作業時の分析ツールとして応用している。