本研究の原点は、ITベンダーの事業戦略についての研究(ITベンダー・ロックイン)にある。この研究の初期段階において、国内外の大手ITベンダーに係わるベンダー・ロックインについて調査を行ったが、この際に、一社だけ顧客ロックイン戦略について例外的に脆弱な企業があった。それがデルである。デルは非常に特徴的な販売方式と生産方式を採用しているが、特筆すべきロックイン・ツールを有しておらず、この二つの特徴だけをもって世界最大級のコンピュータ企業にまで成長できたとは考え難い。そこで、デルの成長に係わる事業戦略についても追加的な調査に取り組むこととなった。本稿は、このデルに関する研究結果に関して、インテルとの戦略的パートナーシップについてまとめたものである。 本稿では、デルは製造事業者として極めて不完全な事業構造を呈しており、「デルは販売事業者(小売業)」として捉える方がむしろ自然であると指摘している。極論すれば、デルは販売のための表層レベルの生産機能しか有していない。そして、純粋な部品製造事業者であるIntelとは完全な凹凸の関係にあり、相互がその完璧な補完体である。過去、Intelは市場から需要に対して先行的に巨額の設備投資を推進してきた。しかし、この「先行的な巨額な設備投資」という点において、Intelの事業戦略は大きなリスクも同時に抱えていた。そこで、システム・ロックイン戦略の視点からも、デルのように常にIntelの技術開発ロードマップを支持し、「インテル・インサイド」を守りながら、常に市場へ大量のIntel製品を送り出してくれる企業の存在が不可欠となる。Intelはデルを、デルはIntelを、相互の立場において最大限に利用しながら、共生的に急成長を遂げてきた。一方において、Intelの技術開発ロードマップや事業戦略的な失敗が生じてしまったケースでは、運命共同体的にデルの成長も失速することになる。