本稿は、インドネシアにおける経済危機とその後の取り組みを、ガバナンス改革という視点から国営企業を取り上げ考察するものである。危機が深刻化した大きな理由は、金融システムの脆弱性とガバナンスにあるというIMFの診断のもと、処方箋として示されたのがスハルト一族の利権事業の解明とその解体、金融機関の透明性向上、汚職撲滅のための積極的な取組、法の支配の確立ないし官僚制度の効率化などであった。そのプロセスで民主化や地方分権の動きが加速し、一連の改革がガバナンス改革として把握されるようになったが、それによりこれまでインドネシアの経済発展を支えてきた国営企業に対する改革も不可避となった。国営企業をめぐる議論は、経営の効率化をいかに図ってゆくかという点にあったが、その前進はスハルト時代を通じても漸次的なものでしかなく、網の目に張り巡らされた強固な管理構造とそこから生ずる腐敗構造を解くことは容易ではなかった。しかし、スハルト後の新たな発展に向けた枠組みを模索してゆかねばならない民主化の時代において、国営企業の役割と機能を一層明確にし、透明性ある事業体として成果を出してゆくことがが不可避となった。本稿では、政府が国営企業の経営改善に向けた取り組みとしてGCGを掲げ、その考え方をOECD企業ガバナンス原則を参考にしながらインドネシア版企業ガバナンス原則を策定し、国営企業へのGCGの導入に向けた国内での議論や取り組みについて述べるとともに、国営企業の経営改善に向けOECD原則が大きな推進力となっている点とともに、その戦略は国営企業に蔓延する腐敗行動の撲滅に向けられている点も併せて述べた。