インドネシアの水産業は重視されつつも、長年政策的な取り組みが十分ではなかった分野である。こうした地域への抜本的な政策として政府は水産物の生産と近隣諸国への輸出を意図した「総合海洋水産センター」(SKPT)の建設を行っている。その政策的な背景と開発の現状を把握すべく、本稿は離島にして国境に接するナトゥナ諸島州ナトゥナ県を事例に調査を実施し(2018年9月)、考察を行った。この政策は、地域振興策としての水産開発という位置づけのみならず、近年の中国による国際秩序のあるべき姿を一帯一路戦略として独自の主張を行っていることへの緊張や影響が、すでにインドネシアにも及んでいるとして、領土、主権及び海洋権益を断固として擁護し維持する必要があるとの認識から、これらの影響が懸念される地域への経済振興策として海洋水産センターを設置し、国防及び治安の最前線基地として計画が策定されている点を明らかにした。ナトゥナはその最前線であり、政府による水産振興、軍による違法外国漁船の取り締まりなど、セーフティーネットとしての役割と機能がSKPTに期待されている点も指摘した。