人の全身像や服装、持ち物などの手ががりがないような暗闇などでもその人のシルエット情報のみで私たちはその人の歩行の様子や性別、人物の同定が可能であることをしばしば経験する。またこの知覚はごく短時間で可能であることも明らかになっている。 この現象は「生体運動の知覚」と呼ばれる問題である。そのようなわずかな知覚的手がかりからなぜ、そしてどのようにしてこの迅速かつ鮮明な知覚印象が生じるのかについては従来のゲシュタルト心理学的な運動知覚の理論だけでは十分に説明できない。 そこで本論では新たな説明理論として登場してきた生体力学的観点からこの知覚の生起プロセスやそのような見えにかかわる諸要因について検討し、心理学的分析と関係づけることにより現象の理解が深まることを論じるとともに、今後の研究の課題について考察した。[執筆頁数12頁]