本稿では企業博物館の役割について、企業の持続的競争優位の観点から考察した。従来の企業博物館に関する研究では、博物館の持つ役割として、社会貢献と企業イメージの向上ならびに発信などが注目されてきた。地域社会への貢献を通じて企業イメージを向上し、結果として製品やサービスの売り上げ増につながればよいという期待がうかがえる。他方、経営学において社会貢献やCSRと企業の財務的利益や持続的競争優位との関係について研究が進められている。これらの研究では、さまざまな議論がなされているが、統一的な見解をみるには至っておらず、企業博物館による社会貢献活動に関しても今後のさらなる研究が期待されている。
他方、経営戦略研究においては1990年代から持続的競争優位の源泉を資源や組織能力に
求める「資源ベース視角」や「能力ベース視角」が関心を集めた。それらはさらにナレッジ・マネジメントやイノベーションといった文脈まで議論の幅を拡げている。
こうした中、われわれが注目したのは、企業博物館の持つ多くの過去の資料や展示物が、現在の従業員にもたらす知識や技術、情報の重要性である。そこで、持続的競争優位の源泉としての組織能力、そして、イノベーションを生み出す新たな知識の結合という側面から、企業博物館の果たしうる役割について検討した。知識の結合には、従業員が交流する場が必要となるだけでなく、経営理念や企業文化を通じた価値観の共有が重要となる。企業博物館がもつ歴史的な資料は来館者にそれらを与えうるということがわれわれの主張である。