長引く不況による補助金の削減など、日本のミュージアムは苦しい経営を強いられており、集客増は大きな課題である。その一方で、その公共性の高さからミュージアム関係者からは単なる集客増による収益の改善には積極的ではない姿勢がうかがえる。その理由の一つとして、従来のミュージアムが「文化の消費者」を主な顧客としてとらえ、その知的欲求を満たし、さらには新たな文化の消費者を生み出すべくcultivation に力を注いできたことが挙げられる。しかし、現代社会はミュージアムに対して、より幅広い地域コミュニティへの貢献を求めるようになってきた。こうした動きに伴い、経営学の分野からも共創価値や知識創造論を基盤とした価値創造などの研究が進められてきている。
そこで、本稿では社会問題を解決しつつ企業利益を高めようというポーターらの共通価値概念がミュージアムのマネジメントに適用しうる可能性について検討している。社会問題の解決という明確な目標は、公共性が求められるミュージアム関係者にも受け入れやすい概念であると考えている。