リーマンショック以後の世界的な危機と国際基軸通貨ドルに対する信認の動揺を契機に、中国人民元の国際化へ向けての動きとして最も注目されるのは、人民元クロスボーダー取引決済の始動である。試行開始1年後の2011年8月、中国人民銀行はクロスボーダー貿易人民元決済の適応地域を全国に拡大した。人民元建て決済を増やし、中国企業の為替リスクを縮小すると同時に、貿易決済に占める人民元の割合を高め、人民元の国際化を促進する狙いは鮮明に読みとれる。
クロスボーダー貿易人民元決済業務が拡大傾向を見せる一方、それ自体の量・質ともに深化が求められている。2010年の状況で言えば、クロスボーダー貿易人民元決済額は貿易総額に占める比率はわずか2.5%に過ぎない。国・地域別では香港が圧倒的で8割以上を占めている状況。また、輸出入比率で言えば、輸入(対外支払い)が圧倒的で、輸出(対外受取)は僅かである。元が切上げ傾向にあるなかで、本来は輸出業者が元決済を切望し、輸入業者は外貨決済を選好するはずであるが、これまでは逆の現象が生じている。
共著論文は、中国の今後の人民元の国際化を如何に推進していくべきかという背景の下で書かれた論文である。論文の中では、東アジアを中心とする地域貿易を基礎とした貿易人民元決済ネットワークの形成が重要であるとの認識を示した上、貿易人民元決済の拡大を推し進めるには、中国の輸出製品の設計、ブランド作り、マーケティング戦略などの諸側面での付加価値の引き上げ、製品差別化とその販売推進が必要であると訴えている。さらに、実務レベルにおける人民元国際決済システムの創設に関して、米国、EU、日本のシステムの優点と中国の経済発展段階の検討をふまえて、人民元国際決済システムのモデルを提示している。