今日、世界的規模で進行している生産工程の細分化・工程内分業・地理的分散という国際分業の展開は、世界貿易に新たな局面を生み出した。最終財を製造する国は、他国で製造された中間財を輸入し、これら中間財を用いて製造(組立)した最終財を最終消費国へ輸出する。例えばApple社のiPhoneは、各国の部品を中国の工場に集めて組み立てている。iPhoneの本体の裏側に、「Designed by Apple in California Assembled in China」(カリフォルニア州でアップル社により設計され、中国で組み立てられた)と記されているとおり、「assembled」(組立てられた)という表現には、 iPhoneの製造は、生産工程の細分化・工程内分業・地理的分散が著しい国際分業体系の特徴がよく表れていると言える。こういったApple社のグローバル経営戦略は国際的な価値分配の観点からも興味深い事例を呈している。この意味からすれば、企業がどの国に属しているのか、あるいはその製品がどの国で製造されたのかの重要性は低まっており、代わりにiPhoneのような国際的な製品の生産に対し、それぞれの付加価値(VA, Value Added)をもつ部品がどの国から提供されているのかの重要性が高まってくる。
本稿は、国際価値連鎖(GVCs, Global Value Chains)という考え方の下で、財の生産・供給過程において、製品の設計や輸送などを含む様々な産業が提供する「付加価値」に焦点を合わせ、まず実務的観点から、「付加価値貿易」(TiVA, Trade in Value Added)統計という新しい貿易統計について概観する。次に、国際価値連鎖による世界経済への影響分析し、最後に付加価値貿易統計による中国への影響と新たな貿易発展戦略について議論を試みた。