本研究で検討したことは、次の三つの問題である。第一に遺言者自身の遺言能力をどのように判断するのかという問題である。筆者は、医学的な観点から判断するのではなく、あくまでも法的な立場から遺言内容の難易を考慮して判断すべきであることを論述した。第二に遺言執行者が指定されている場合に遺産分割協議で遺言書の内容と異なる遺産分割をすることは許されるのかという問題である。筆者は、遺言書に反する遺産分割について遺言執行者の同意がなければ無効とする見解を支持することを述べた。第三に遺言書の一部を他人に書いてもらっている場合、その有効性をどう判断するのかという問題である。他人が書いた部分を除外しても遺言の趣旨が十分に表現されているものであれば有効であるという「遺言全体のウェート説」を支持することを示した。