租税制度は、税法により規定され法律解釈に基づいて運用される法学的な側面と、効率や公平といった経済目的を実現する経済政策としての経済学的な側面をもつ。従来これらの研究は別々に行われてきたが、本研究ではこれらを組み合わせて包括的に考察する。
まず、相続課税には遺産税方式と遺産取得税方式に大別されるが、これらの課税方式について、法律の概念としての譲渡性を基準に法学的な再分類を行う。つぎに、こうして8つに分類された課税方式を、経済学の概念である遺産動機を使って経済学上整合的な分類を抽出し、それらの経済効果を分析する。
その結果、4つの遺産動機のうち、ライフサイクル動機とJoy of Giving動機に基づく課税方式は税法理論と経済分析がともに整合的となるが、残る2つの戦略的動機と利他的動機に基づく課税方式は資源配分上非効率となり、望ましい経済効果をもたらさないことを示す。
最後に、わが国の現行相続税法による課税方式は利他的動機に基づく遺産税方式と考えられ、さらに、この利他的動機による課税方式がもつ経済的非効率性を改善するために、標準的な遺産税方式を修正したものとなっていることを示す。