わが国の法人税法における役員給与の取扱いについて、法学的な観点と経済学的な観点の双方から考察する。
まず、役員給与は現行税法では委任契約における労務の対価という法律上の性質から給与所得に分類されているが、コーポレート・ガバナンスの観点からはこの区分は問題があり、同族会社の場合は事業所得区分が妥当であることを示し、しかし一方で、他の法制度(とくに会社法)との関連では所得区分の見直しは難しいことを指摘する。
つぎに、経済学的なアプローチとして、エージェンシー理論により分析した結果、同族会社における経済合理性のある役員給与の額は、非同族会社の経済合理的な役員給与の額に比し、エージェンシー・コストに相当する額を上限として減額されるべきであることを示す。
以上の考察の結果、同族会社と非同族会社では役員給与の法的価値と経済的価値はいずれも大きく異なることを示し、あわせて、非合理的な課税措置であるとして2010年に廃止された特殊支配同族会社の役員給与の損金不算入規定は、エージェンシー理論からはむしろ合理的な課税措置であったことを示す。