経営理念については、数多くの先行研究に於いて概念定義・構成・役割や機能といった様々な観点から議論がなされているが、重要なテーマはいかに理念を組織内に浸透させ、組織成員のパフォーマンスにつなげていくかである。そこで本稿では、経営理念が企業の社会的存在意義を表明するものとして、従来から日本の経営者に重視されるなか、経営理念によって基準化された経営者の意思をもとに、組織成員が知覚する多様なアイデンティティを活かしながら理念の浸透に努めている中小企業を対象とした、複数ケース・スタディの成果を述べている。
具体的には、自分が何者であるかという自己定義ないし自覚であるアイデンティティを、個人や組織レベルで捉えた場合の諸相を踏まえ、経営理念の受容や体現が、アイデンティティの知覚・受容を通じて組織内の協働体制構築につながるプロセスを明示した。その中で、経営者が組織内外で果たし得る理念浸透の促進機能に加え、職場で連結ピンの役割を担いながら組織活性化を図るミドル・マネジメントの結節機能にも焦点を当て、経営者やミドルが知覚し受容しているアイデンティティが、いかに理念浸透プロセスに係わっているのかを明らかにした。