本稿は、厳しい経営環境のもとで、経営理念に立脚した‘原点’を見据えた経営行動によりゴーイング・コンサーンを追求している中小企業において、経営者がいかなるリーダーシップを発揮しながら、人と組織の活性化を図っているのかについて実相を把握・分析し、知見を導出する探索的研究である。
具体的には、日本マネジメント学会 第76回全国研究大会の事例報告企業4社を対象に、複数ケース・スタディを実施した。主な分析視角は、経営理念の具現化に向けて現場のモチベーション高揚を図る戦略を経営者が主導するなかで、組織成員の一貫した行動を喚起しながら組織一体感を醸成するリーダーシップがいかに発揮されているのかである。
その結果、経営者自身がイノベーションの実行者として、方針策定から現場での創意工夫に至る過程で、内省型など多様なリーダーシップを発揮している実相から、知見が把握された。
具体的には、原点回帰とは単に立ち返って見つめ直すだけではなく、他者の多様な価値観も受容しながら内省し、言行で示すことと判明した。さらに、いかなる局面においても顧客に対し感動を付与し続けていくためには、経営者自身が他者との係わりを事あるごとに振り返り、他者が示す言行や価値観の受容を通じて自身のポジショニングを「内省」することの繰り返しを通じて、他者への影響力を高め得るリーダーシップ、すなわち「内省型の制度的リーダーシップ」の発揮が必要となることも判明した。