本稿の問題意識は、経営理念を基軸とした経営(理念主導型経営)には、経営者自身が他者や他組織との係わりを事あるごとに振り返りながら、日々の経営行動やそれに伴う意思決定に至るさまざまなプロセスを‘内省’し、他者が示す言行や価値観の受容を通じて、自身のポジショニングを自ら‘再意味づけ’をすることの反復が基軸として必要ではないかということである。
そこで本稿では、既に先行研究で議論のある‘制度’概念を援用しながら理念主導型経営に係わる問題を検討するため、経営理念の機能や制度的側面、経営理念の制度化に係わる先行研究をレビューする。そのうえで、経営組織
に構築された独自の‘制度’がいかに理念主導型経営の構築や定着に向け機能しているのかについて、単一ケース・
スタディをもとに制度化のプロセスに着目しながら明らかにする。
事例企業の経営者に対するインタビューを分析・考察した結果、経営トップが組織成員をはじめするステークホ
ルダーに対し、経営理念の具現化に向けて執るべき意思決定や言行を自身の感性・感度で‘再意味づけ’ながら表明
するナラティブが、理念主導型経営の中で重要な機能を果たしている‘制度’の構築プロセスが判明した。