南洋群島統治において中心的な役割を果たしていた南洋興発株式会社、南洋拓殖株式会社、臨時南洋群島防備隊、南洋庁といった企業または行政機関における会計の機能をアジア歴史資料センター、国立公文書館(つくば分館)等に所蔵されている一次史料を利用し、分析した。本論文における貢献とインプリケーションは、以下のようになる。1つ目に、戦争・軍と会計という共通テーマのもとで非アングロサクソン・セッティングの新たなケースを蓄積することができた点である。2つ目に、植民地経営において重要な役割を果たしていた諸企業が直面した現象である営利性(私益)の確保・追求と国益の追求(国策への貢献)というジレンマに、南洋興発株式会社、南洋拓殖株式会社も直面し、そこで会計が役割を果たしていたことを指摘することができた点である。3 つ目に、南洋群島を含めた各植民地経営のマクロ的側面を会計が支えていたという点である。4 つ目に、南洋群島経営の特徴を明らかにすることができた点にある。すなわち、南洋群島においては、会計が民主的なかつその経営を安定させるツールとして機能するための土壌が備わっていたことを指摘した。5 つ目に、会計が19 世紀後半から20 世紀前半にかけて生じた領土拡大の中にあっても自明のツールとして存在していたしていたという点である。すなわち、南洋群島経営においては、占領当初から、軍隊としての武力だけでなく、予算・決算といった会計ツールが自明なものとして利用されていたことを指摘した。