本稿では、佼成図書館蔵『めうほふれんげきやう』(古618-1~8/貴1-7E。以下、「佼成図書館本」と呼称する)を主たる対象資料とし、室町~近世の資料を利用して、江戸初期~中世の法華経読誦音における-t入声の状態を次のようなものであることを述べる。
-t入声の大部分:-t入声形
基本的な字:開音節化形
上の目的を達成するため、①佼成図書館本の-t入声字の表記を調査し、先行母音に関わらずツ表記を使用する段階にあることから、-t入声の「寄生母音」が一種に統一された段階以降に属する表記体系であること、②基本的な字においてはチ表記されるため、基本的な字においては開音節化していること、③チ・ツ表記が交替する字については自由に交替するのではなく、語が交替の条件となっていることを述べた。
以上は、-t入声字の発音と表記の結びつきを示すものと考えられる。また、これは佼成図書館本のみに限定されるものではなく、室町時代~江戸初期ごろの文献においても確認された。