呉音資料ではある字音形態素(以下「字」とする)の声調が一つに定まらない場合がある。このような事例として、本稿では字音形態素「等」を取り上げる。
本稿ではまず古写本・近世版本で「等」に対する声点加点例を調査する。次に、上声点加点が見られる「等持」「等至」について、「等」の意味に違いがない場合にも声調が異なること、禅定関連の類似用語とも声調が異なること、「等持」「等至」を構成する字の字音の種類がいびつであること、呉音声調から外れる声調をもつ語が二語あることを指摘した。
調査の結果、「等」の呉音声調は平声であり、「等持」「等至」の「等」は上声であることが明らかになった。この要因は「等持」「等至」が個別的な変化を経験したためと推測し、漢音語「等至」への類推で「等持」の「等」が上声化したものと考えた。「等至」への類推が起こったのは、「等持等至」というコロケーションが高頻度で生じたためと考えられた。