室町時代を対象として-t入声の実現状況を調査し、通常開音節化していた形態素であっても、室町時代の経書では和語と区別される-t入声の形を保っていたことを例証した。通常開音節化する平易な字では、清原宣賢(1475-1550)書写本において、-t入声の形を残す例が経書に集中することを述べた。一方、ローマ字本キリシタン資料では開音節化した形が見られた。また室町時代後期から江戸時代初期ごろの他文献でも、-t入声の形は経書にのみ見られた。経書において-t入声の形が見られるのは古形維持によるテクストの威信向上のためと考えた。