Dickens の代表作の一つと考えられる『大いなる遺産』を五つの異なる視点から捉え、全体像を浮かび上がらせることを試みる。その基本となるのは、第一章「視線の物語として読む」であり、ここでは主人公の精神的成長を視線の変化で跡づける。この視線は遺産相続の希望により、大きな倒錯を経験することから、第二章「逆転の物語として読む」では、視線の逆転と共に小説内の他の様々な逆転的要素を追う。第三章「物語の二元性から読む」では、物語の持つ「暴力」と「治癒力」の観点から個々の「語り」、及びそれらと小説全体の構成との関連について考察する。第四章「二つの“ending”から読む」は言わば読者としての視線を逆転して、作品を“original ending”と“second ending”との両者から捉え直す試みである。第五章「ディケンズの文体の具象性」では、この作品に『二都物語』考察も加え、内容を体現したディケンズの文体の魅力に迫る。