銀行に勤める実務家 Mr.Lorry を登場人物と語り手の中間的存在にしたことが、『二都物語』における革命批判には有利に働いたことについて前稿で述べた。しかし最初に Dr.Manette を「発掘」し、物語を始めた彼は、後に全ての主要人物を図らずもイギリスからフランスへ移動させることで、彼自身登場人物としても物語を動かす力としても衰弱して行く。一方 Carton は自己犠牲によって Darnay を救うだけでなく、自らの過去と共に物語に潜むフランスの過去の災いをも清算する。彼の人間への興味、尊敬は彼の以前の無関心及び仏貴族と民衆に共通した非人間性を克服しているからだ。その意味で、この小説は彼なくしては完結しなかったと言えるだろう。本論では、カートンの精神的覚醒の経緯を辿りながら、ローリーからカートンへという物語を動かすダイナミズムの移行を明らかにすることを試みる。