C.Dickens によるこの作品は、舞台をマーシャルシー監獄に置き、登場人物のほとんどが有形無形の牢獄に囚われていることを特色とする。例えば、主人公 A. Clennam の心は“reserve and self-mistrust”という自己不信に幽閉されていた。しかし一見無気力な彼の内部にも自己の精神的欠陥を直視する勇気が潜んでいた。その認識に立った上で自らを「誰でもない人」(“nobody”)と見なすことにより、彼は内的葛藤を克服しようとする。その無私の態度こそ彼を心の牢獄から解き放つ鍵だったと言えるだろう。本論では、他の人物との対照の中で A.Clennam の精神的成長の軌跡を辿りながら作品分析を試みる。