E.Wagenknecht は経験的創造力という点における C.Dickens と K.Mansfield の類似性を指摘している。また、後者が前者の作品を愛読していた事実も彼女の日記や書簡から明らかだ。 本論では Mansfield の “ The Man Without Temperament” を考察するに当たり、主人公 Mr.Salesby と酷似した人物の登場するC .Dickens の Little Dorrit を参照しながら、Mr.Salesby 及びその周囲の人々に掛けられた心の枷の実体を明らかにすることを試みる。Dickens における心の牢獄が主として個人的なものであった一方、この作品に見られる心の枷は“pair”のイメージに顕著なように、男女間に不可避な拘束的関係と言えるだろう。