K.Mansfield によるこの短編の主人公デュケットは人生への夢を失い、全てを自己流の「ルール」に照らして考えようとするニヒリスティックな若者である。しかし、彼の内部では自我の分裂が起こり、真剣な自己分析が絶えず行われていた。だからこそ、絶望的状況にあっても決して希望を失わないマウスという女性の純真さに触れた時、彼にはその自分とは正反対の存在を堕落の色に染めてはならないという意識が働く。「ルール」違反を敢えて犯し、それを告白せざるを得ないことが、彼の堕落にも救いの余地があることを示していると言えるだろう。回想形式で語られる彼の意識を追いながら、彼の堕落の本質を明らかにするのが本論の目的である。