Charles Dickens は Bleak House の Prefaceの中で「私は『荒涼館』では意図的に日常的な事柄のロマンティックな側面を取り上げた」と言っている。これは彼の芸術論であるばかりか、作中人物に様々な形で反映される物の見方の問題である。語り手であると同時に主人公でもある Esther Summerson は私生児という生い立ちに苦しみながらも、周囲の人々との共感や母の確認、 Allan Woodcourt との恋愛を通して成長する。その成長は彼女の物の見方の変化に端的に現れている。 本論では、Esther が「日常的な事柄のロマンティックな側面」を捉える視線を獲得するに至る過程を追いながら、彼女の精神的成長の軌跡を明らかにすることを試みる。