本稿では従来の研究で説明が不十分であったバーデン広軌鉄道の邦有化(領邦レベルでの国有化)の理由を明らかにした。それは、邦有化の際に鉄道会社の収益性重視の方針に基づく路線網の縮小すなわち交通サービスの過少供給に対する領邦政府や議会の対応策であった。加えて, 経済学的に言えばバーデンの鉄道邦有化は鉄道事業の実施の際の不確実性を減らすための取り組みであった点を指摘した。それ故に鉄道建設初期の段階から邦鉄(国鉄)の形態が選択された。また,邦有化の決定に際してネーベニウスの見解の変化の影響も大きかったことも言及した。これらの考察から,①邦有化は,軌間・軌道構造・複線・鉄道資材の自給化等のバーデン広軌鉄道の有する戦略性の一部をなしており,②国有化の弊害を強調する従来の見解とは異なり, 当時の状況下では,バーデンの鉄道邦有化には合理性があったと結論付けた。(15頁)