査読付き論文。19 世紀前半のバーデン大公国広軌鉄道は、1.6 メートル(5 英フィート 3 インチ)の広軌に対応した軌道構造を選択した。鉄道システムの受容において軌間選択と軌道構造の選択は密接に関連していたにもかかわらず、従来のバーデン広軌鉄道史ではこの観点からの考察がほとんど行われなかった。そこで本稿では、従来研究蓄積の乏しかった技術史的視点すなわち軌道構造選択の観点から、19 世紀前半のバーデン広軌鉄道を考察した。とりわけ橋形軌条と縦列枕木という軌道構造の選択の経緯とその根拠、軌道構造の変更を実証的に明らかにした。加えて、当時の鉄道技術の国際的趨勢ならびに英の著名な鉄道技師ブルネル(Brunel)の影響を考慮した。このような考察により、バーデン広軌鉄道の軌道システムの選択の合理性が示されるとともに、システム導入時の技術情報の収集・分析活動およびその問題点も明らかになった。(21頁)