販売管理論において、近年主流になっている認知的アプローチにおいては、販売員による販売状況への適応の巧拙がその有効性を規定すると考えられている。しかし、既存研究においては、単なる販売員行動の記述に終始するものがほとんどであり、販売員行動が行われた状況の性質の解明が試みられたことがない。そこで、本研究においては、インタビュー調査によって、販売員に何らかの行動をとらせるきっかけとなった状況を抽出し、分類、整理した。インタビュイーが言及した 225の状況のうち、既存研究ではあまり注目されてこなかった買い手に関する状況が 111を占め、販売員行動の重要な規定因となっていることが明らかになった。また、既存研究で注目されてきた、顧客との面談回数という状況変数は、インタビュイーからほとんど言及されることがなく、何らかの適応を必要とするような重要な状況変数ではないのではないかという示唆が得られた。こうした研究結果から、今後の研究においては、買い手状況別に販売員行動を記述することによって、販売員行動の有効性に関する仮説が導出されるであろうという示唆が得られた。(文部省科学研究費・課題番号09730074による助成研究の中間報告)