1985年のプラザ合意、1987年のルーブル合意によりG7は為替レートを市場の決定に委ねることはできないという明確な意志表示をした。しかし、現在の為替レート管理は「突発的」であり、相場安定の必要性は主張されるものの、いかに管理されるべきかについてのコンセンサスはない。為替レートを貿易(経常)収支不均衡を調整するよう管理することが必要であるとする「主流派」見解の具体的提案は、J.ウイリアムソンのターゲットゾーン構想にみられる。ターゲットゾーン構想の基本的な目的は、経常収支を実質為替レートの公的な管理・設定を通じて「基調的資本収支」に一致させることにある。しかしこの場合、「基調的資本収支」の確定には規範的要素が含まれるために、「市場」が「政府」によって歪められることを否定できない。一方、マッキノン見解の具体案は、「新三国通貨協定」に集約されている。これは為替レートを購買力平価に固定し、国際的に統合された価格体系を実現することを目的としており、国際不均衡調整に関しては市場メカニズムに全面的に依存するシステムである。そこにはリアル経済における国際的格差(生産性上昇率など)を吸収するための装置はない。ウイリアムソン提案とマッキノン提案はともに日本、米国、欧州の三極間の為替レートのあり方を問題としているが、以上のようにそれぞれ内在的な問題を抱えている。しかし、彼らの提案は、EUにおける固定相場システムから単一通貨への移行問題、あるいは東アジア地域における為替制度のあり方等、地域的通貨制度の形成を考察する基本的枠組みを与えるものである。