1980年代以降、多くの発展途上国で金融改革が推進されている。金融改革の特徴は、従来の政府による金融部門への積極的な介入(金利規制、信用割当、信用総量規制等)による「金融抑圧」を排除し、資金配分を民間金融機関の自己裁量に委ねる金融自由化政策にある。マッキノン(R.McKinnon)及びショー(E.Shaw)によって発展させられた「金融抑圧」論は、本来1970年代のラテンアメリカを対象とした議論であり、そのパラダイムによって東アジアの成長を説明することには限界がある。確かに、政府による金融部門への介入が広範囲に行われている発展途上国の多くは、著しくマイナスの実質金利と非効率な政策金融によって、金融的発展(金融深化)は抑圧され、投資効率性も悪い。しかし、政府と市場とを対立的関係としてのみ捉えるマッキノン=ショーの分析では、政府と市場との補完的関係、より具体的には「金融抑圧」とマクロ経済の安定性の問題、不完全金融市場を前提とした場合の民間金融仲介機関による資金配分の非効率性とそれに代替するものとしての政府による資金配分の有効性を捉えることはできない。金融改革と経済成長との相互関連性を明確にするためには、東アジア諸国(地域)政府が、「金融自由化政策」過程において果たしてきた機能をより具体的・実証的に検討する必要がある。