本稿では、韓国、シンガポール、タイ、マレーシア、インドネシア、フィリピンにおける1981年以降の為替レートの変動を、各国の短期金利と対ドル為替レートを内生変数とし、日本とアメリカの短期金利及び円ドルレートを外生変数とする2変量自己回帰モデル(VARモデル)に基づいて検証した。東アジア諸国の為替レートの変動に関する先行研究では、円の影響力を検証する際、円ドルレートの変動すなわち円高期と円安期における各国での政策対応の差異を明示的に検証期間の区分設定に取り入れていなかった。本稿では円高・円安期に基づく区分設定を行うことにより、1980年代以降円が東アジア諸国に与えていた影響力の特質をより明瞭にした。検証の結果、韓国、シンガポールタイ、マレーシアにおいて、それぞれの国の対ドルレートと円ドルレートとの間に正の連動性が有意に観察され、また連動性は円高期よりも円安期の方が強いことが明らかとなった。東アジアの為替レート政策が不安定な円ドルレートの変動に左右されていたことは、通貨危機との関連でも重視されねばならない。