本稿では、東アジアの為替レート政策をブレトンウッズ体制崩壊後の変動相場制度の特質及び1990年代に加速した金融自由化政策との関連で把握し、その合理性と限界を指摘することを通じて、東アジア経済が21世紀に直面する国際通貨システム上の課題を明確にした。東アジア諸国は「跛行ドル体制」下で展開される長期的円高傾向、短・中期的不安定性という円ドルレートの変動を巧みに利用しながら、自国経済の発展を実現してきた。しかし東アジア経済の発展は「跛行ドル体制」そのものをさらに深化・変容させることとなり、米国経済およびドル体制の維持にとって無視し得ない存在となった。1997年の「東アジア通貨金融危機」はヘッジファンドに代表される国際金融市場・外国為替市場の投機化現象とIMFが強く主張する東アジアの未熟な経済構造との結節点に生じたものと捉えられるが、それは金融自由化政策の下で徐々に進行してきた東アジア諸国における裁量的ドルリンク政策解体過程の最終局面として位置づけることができる。変動相場制という新たなステージに突入した東アジアはもはや「跛行ドル体制」のフリーライダーとして振舞うことは許されない。ドル体制を支える一員となるか東アジア独自の地域的通貨システムの構築に動き出すのか、東アジアは現在歴史の重大な岐路に立たされている。