本稿では金融危機後の世界経済回復過程におけるタイの為替相場政策について考察した。特に、2011年以降に実施された外貨準備蓄積の停止、資本移動自由化の推進、インフレターゲティングの変更という一連の施策と為替相場管理との関連性を整理したうえで、2012年以降におけるタイバーツの対ドル、対ユーロ、対円連動性を検証することにより、為替相場政策の新たな動向を分析した。その結果、新たな為替相場政策採用後も、タイ中央銀行はドル、ユーロ、円といった先進国通貨をバーツ管理の重要な参照通貨としていること、為替市場の混乱期には対ドル連動性が強化されること、バーツ高騰を積極的に抑制する為替介入は実施されなかったこと、2014年8月-11月における円安期以降、円連動性が著しく高まったことなどが明らかになった。バーツ相場の上昇を容認するというタイ中央銀行の新たな為替政策の方針は必ずしも自由変動相場志向(日本モデル)的とはいえず、厳格な通貨バスケット方式に基づくシンガポールをモデルとしている可能性もあり、さらなる検証が必要である。
分担執筆 : 福居信幸(代表) 前川功一 増原義剛 野北晴子 糖谷英輝 小笠原礼以 小松正昭
担当 : 第8章 「タイの為替相場政策 -金融危機後の世界経済回復過程における新たな動向-」