本稿は、Auerbach and Kotlikoff(1987)のモデルに従い、賃金率の変化率が余暇消費や消費支出とどのような関係であるかについて考える際に重要となる同時点間の代替の弾力性ρの働き、そしてその値の大きさとその値の異世代間較差の存在の有無を中嶋(2001)の結果を前提に明らかにすることを目的とする。 先ず、最適消費支出と最適余暇率の関係を表す式から、同時点間の代替の弾力性ρの意味について考察を行なった。そして、ρは賃金率の変化率のどの程度が、余暇率の変化率dlt/ltと消費支出の変化率dct/ctの差に相当するのかを決定する役割があること、余暇率の変化率dlt/ltが賃金率の変化率にどう反応するかに依存してdct/ctとdlt/ltの絶対値の大小関係が決定することが明らかになった。 次に、同時点間の代替の弾力性ρの推計とその統計的仮説検定を行い、異なる世代全般において推計式の定数項と同時点間の代替の弾力性ρに違いがある点と比較的近い世代間ではそれらに統計的有意な差が無く、同時点の代替の弾力性ρが若い世代ほど小さな値となる傾向を示している点が明らかになった。このことは、賃金率の変化率が消費支出の変化率dct/ctと余暇率の変化率dlt/ltとの間に大きな差を生まなくなる傾向が生じることを意味している。