家計がライフサイクル仮説に従うと想定した場合、今期の行動は異時点の経済変数から影響を受けることになる。これは、将来の税制の変更が、各世代の異なる意思決定への影響を経て今期の経済状態に影響を与えることを意味する。このような異時点間の政策変数の影響を考慮して、本稿では、労働所得税に焦点を絞り、今期税制と将来税制との関係が世代間に与える影響と社会的厚生に与える影響について議論をしている。各世代がこのような将来税制を考慮に入れて意思決定を行うことに配慮して、このような帰着問題を議論するために、Auerbach, Alan J. , Laurence J. Kotlikoff, Jonathan Skinner(1983)やAuerbach and Kotlikoff(1987)で開発されたライフサイクル一般均衡モデルを用いている。分析の結果、増税予測は今期経済の社会的厚生を低下させる結果を得た。社会的厚生低下について世代間の寄与度を計算すると、若年世代の寄与度が最も大きく、続いて壮年世代の順になり、退職世代は正の寄与度となった。また、減税予測は、増税予測とは逆に、全体としての社会的厚生は上昇し、若年世代と壮年世代の寄与度は正となり、退職世代の寄与度はマイナスとなる結果を得た。これらの結果から、将来の租税政策が特定の世代には有利となり、それ以外の世代には不利となり、世代間の利害関係の存在が明らかになった。