日本語の文を処理する際に、その最も基本となる情報が、意味役割(thematic roles)、格助詞(case marker)あるいは文法関係(grammatical relations)かを、正順語順とかき混ぜ語順の文正誤判断課題に要する時間と誤答率の比較による実験で検討した。実験1の二項動詞能動文では、[NP-ga[NP-o + V]]が正順語順であることが分かった。実験2の三項動詞能動文でも、[NP-ga[NP-o[NP-ni + V]]]が正順語順であることが分かった。しかし、能動文では、意味役割、格助詞、文法関係が一致して同じ情報を提供するので、異なる文構造での実験をしなくてはならない。そこで、意味役割と格助詞が対立する二項動詞受動文で、実験3を行った。その結果、[NP-ga[NP-ni + V-passive]]が正順語順であることが分かり、格助詞の情報が意味役割に優先することが明らかになった。さらに、格助詞と文法関係が対立するので可能文(「花子にギリシャ語が話せるだろうか」など)で実験4を行った。すると、今度は[NP-ni [NP-ga + V]]が正順語順となった。最後に残ったのは、主語と述語という文法関係の情報であった。つまり、どのような文であっても普遍的に一貫した情報を提供しえたのは、意味役割でも格助詞でもなく、文法関係であることを証明した。Tamaoka, K., Sakai, H., Kawahara, J., Lim, H. & Miyaoka, Y.