母語に体系的な敬語を持たないといわれている中国語母語話者による日本語の敬語習得は、どのような形で進むのだろうか。本研究では、中国語系日本語学習者を日本語能力テストの得点によって下位・中位・上位の3グループに分け、日本語の尊敬語と謙譲語の習得の度合いを3者間で比較した。分析の結果、全体として、日本語の敬語の習得は、日本語能力が高くなるにしたがって進んでいた。しかし、習得のパターンは尊敬語と謙譲語とで異なっていた。尊敬語は自己・身内敬語の中位と上位の間に有意な差が見られなかったほかは、日本語能力が高くなるにしたがって尊敬語の習得は進んでいた。一方、謙譲語は、文法事項と他者敬語の下位と中位の間に有意な差が見られなかった。以上のことから、謙譲語の習得は、下位から中位にかけてはほとんど同じ程度で、中位以上になってから進むことが多いといえよう。これは、謙譲語の概念理解が、中国語系日本語学習者にとっては尊敬語よりも難しいことを表しているであろう。謙譲語は尊敬語と異なり、動作主と敬意の受け手が異なっていることから概念理解が難しく、習得に時間を要するものと思われる。宮岡弥生・玉岡賀津雄