本論文では、敬語学習において最小の労力で最大の効果を上げたいと願う初級レベルの外国人日本語学習者にとって、習得が比較的たやすく、必要最低限かつ十分な待遇表現とはどのようなものかを明らかにすることを目的とした。この目的を達成するために、日本人大学生の敬語意識と知識、敬語に対する聞き手としての日本語母語話者の適切性判断、外国人が用いた待遇表現に対する日本人の感じ方、中国語系日本語学習者の敬語習得、中国語系日本語学習者と韓国語系日本語学習者の敬語習得の比較といった観点から、調査と分析を行った。その結果、1.話し手自身の内省に基づいて言語学的な観点から捉えられてきた待遇表現体系における丁寧さの順序と、聞き手側が捉えた待遇表現の適切さの順序の間には、ズレがあること、2.中国地方在住の日本人が、初対面の女性が用いる待遇表現として最も適切であると判断したのは、話し手の年齢、国籍を問わず、「行かれるんですか」であったこと、3.中国語系日本語学習者においては、人間関係の把握に関する訂正課題の得点の方が、文法事項に関する訂正課題の得点よりも有意に高かったこと、4.中国語系日本語学習者と韓国語系日本語学習者は、第三者に対して謙譲語を用いるのが比較的苦手であることなど、11の新たな知見を得た。これらの結果を踏まえて、初級の段階における敬語指導の一つの方法として、尊敬語は、「-れる・られる」を中心に指導すること、謙譲語は「お-する」のかわりに丁寧語を用いるようにすることなどを提案した。