本論の目的は、現在における中国の建設統計の現状を日本の統計の体系と比較し、評価することを目的としている。ところで、「建設統計」がどの範囲をカバーするかについては明確な定義はない。参考として、財団法人建設物価会が編集した『建設統計ガイド』によれば、直接の建設活動だけでなく、関連分野の統計を含むかなり広範囲の分野を対象としている。しかし本論では、建設活動を直接把握するための統計に限定して比較を進めることにした。 本論では建設統計の「中核」部分である建設動態統計と建設構造統計を検討してきた。日本については、建築基準法に伴う行政記録が得られるため、その作成が容易であったが、改革開放後の中国では、毎年実施される企業ベースの統計によらざるを得ない点で困難があった。しかし、その後の調査の開発によって、少なくとも大規模建設業者の動向は的確に把握できるようになってきている。一方、建設構造統計については、企業ベースの調査が必要である。建設業は小規模な企業が多いために、日本では大規模企業には全数調査、小規模企業には標本調査を実施している。中国では、農村建設業の重要性から農村部についての小企業の調査を実施していることは評価できるが、非農村建設業の調査も今後の検討課題となろう。 建設統計の中核部分については、日中両国とも一応満足できる水準にあるといえるが、中核部分を囲む「関連統計」には2国の間に差がある。例えば、建設需要の構造把握に必要な住宅の現状について、日本には総務省「住宅統計調査」という大規模調査があるが、中国には対応するものが見出せない。