近年、漢字文化圏を主とした東アジア法系の可能性に言及した研究が多見される。確かに大陸法を範として法典編纂を行った国であるかぎり、法体系と普遍化された抽象的な法的概念についての共通項は少なくない。ただより血の通った法の理解を指向するのであれば、個々の観念と法的概念の間の媒介となる土地の風土、歴史、慣習などの考察が不可欠である。判例法として認められた慣習上の物権的権利とは、強力な社会的需要の前に法が譲歩を示した事例であるが、本稿では、日本統治時代の台湾の「旧慣」をキーワードに、台湾漢人社会の土地所有に関する中心的な概念であり、現行法上の所有権という抽象的な概念にある種の固有性や特殊性を付加していると考えられる「業」について考察した。