東アジア諸国における歴史認識の錯綜と同様に、台湾法史においても様々な歴史認識が存在する。とりわけ、一九九〇年代以降台湾の政治的民主化に伴い顕在化してきた二つの史観、すなわち中華民国法史と台湾という土地を主体とした法史との間のせめぎ合いは、その錯綜した歴史認識を如実に反映したものでもある。これら二つの史観の差異を顕在化させる媒介としての日本統治時期への言及例には、台湾法史に内在する矛盾や葛藤が示されている。2009年の大法官会議解釈第六六八号には、再び始まった中華民国史観への傾斜が暗示されており、注目に値する。