本稿は在来製鉄業の経営分析である。従来の研究史は、幕末開港によって安価な洋鉄が輸入されるようになり、在来製鉄業が衰退に向かうというイメージで捉えられてきた。それに対して本稿は、島根県の田部長右衛門家の古文書を分析することで、呉海軍工廠との取引関係が田部家製鉄業において重要な意味をもっていたことを解明した。特に日露戦争期に膨大な量の鉄を田部家が納入していたこと、その後は急速に需要が落ち込むことを実証した。
担当部分:第3章「在来製鉄業と呉海軍工廠―田部家文書の分析を中心に―」、79~113頁(編者:河西英通、分担執筆:中山富広、坂根嘉弘、平下義記、布川弘、砂本文彦、斎藤義朗、河西英通、落合功、林美和)