本研究の目的は,①教授的意思決定は何によるか,②授業の方向を定めるリソースの機能は何かを明らかにすることであった。①については,生徒の反応,とりわけ予想しない生徒の反応が意思決定をしようとする動機となり,生徒の到達度の差,授業の目標,時間,信念が判断材料となった。実態として,それら要素が対立構造を生むとき意思決定のプロセスにジレンマが生じる場合があることがわかった。また,授業者には無意識下で意思決定が行われる場合があること,予想外の生徒の反応があり原因がわからない場合には根拠をあいまいにしたまま意思決定が行われることなどがあることがわかった。これらは意思決定に困難性があることを示している。困難性への対処として,例えばジレンマを回避するための判断基準を事前に準備することなどがあった。②のリソースの機能については,予想しない生徒の反応は主に意思決定の動機付けとして使われた。また,生徒の反応のリソースとしての価値は,授業前,授業中,授業後で変化することが推測された。信念は,授業の流れや発問を決定するために使われるだけでなく,大きな変更を決断させたり,意思決定の対象を固定化したり,生徒の様子を多元的に解釈する機会を確保する働きをしたりした。